サヨナラを超えてきた。

僕が高校時代に付き合っていた同級生は家庭の事情で児童養護施設で育った人でした。
彼は施設での異常な経験のせいで、メンタル面に問題を抱えていました。
「自分はボーダーライン人格障害だ」とよく言っていました。
当時はネットもないため、一般的には知られていなかった病名でした。
彼はよく図書室で精神医学の本を開いて「ボーダーライン人格障害」について調べていました。
僕は今でも彼にその障害が本当にあったのか、わかりません。
しかし、メンタル面が弱い僕よりさらに弱くもろい彼のフォローをしなくちゃいけないと当時は考えました。
思春期だけに「病んだ僕ら」という設定に酔っていたのかもしれません。

それから時間が流れ、僕は大学に進学しました。
大学にもバイト先にも音楽が好きな人がたくさんいました。
その時、彼は大学の受験勉強をしていました。
3流大学でろくに勉強もしていなかった僕は、だんだん彼の入試の話が煙たくなってきました。
そして、大学1年の秋に「もうしばらく会うのをやめよう」と切り出しました。
それからはメールの返事も億劫になりました。

ある夜、僕がバイトをしている店に彼が突然、客としてやってきました。
僕は焦りましたが、平静を装い、完全に無視しました。
そして、1時間くらい店内にいた彼はそっと帰って行きました。
バイトが終わって、「まったく!なんだよ!」と思いながら自転車を探していると、僕の自転車だけ倒れていました。
「あいつ、倒しやがったな…」と自転車を起こすと、カゴにびしょびしょに濡れた紙切れが入っていました。

「今までありがとうございました。」

街灯の下で見たその青く滲んだ文字は、ミミズの死骸のような乱筆でした。
僕は「ヒッ」となって、それを闇夜に放り投げて、全速力で帰りました。
そのミミズたちは僕の罪悪感を200%引き出し、それから長く僕を苦しめました。

− 6年後、僕は現在の恋人、モグさんから書き込みをもらいます。
モグさんの綴る抑圧された生活の中での自己嫌悪は、まさに高校時代の自分そのものでした。
「メールと電話だけならいいだろ」
僕は自分に言い訳しながら、メールを返信して、受信して、また返信しました。

僕は同じようなことばかりを繰り返しているように今も思いがちです。
でも、いつまでも変わらないものなどなく、いつの間にか自分が変わり、それにともなって周囲の環境も変わります。
変わりたくないものも変わってしまうのです。
二度と帰れない昨日が、僕の足元を照らしています。

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