なんとなく悲しいからなんとなく楽しくなれるんだよ
生まれて初めて孤独を感じたとき、俺は夕方の公園にいた。
真っ赤に沈む太陽が滲んでいく。胸の鼓動が早くなるのを感じた。
先日、恋人とDVDをレンタルしに行った。
お互い一本ずつ借りようということになり、恋人はすぐに観たい映画のソフトを持ってやってきた。
俺は普段なら大好きな映画選びのはずが、どんどん具合が悪くなった。
汗がダラダラ流れる。息があがる。めまいがする。
棚の影で膝をついて息を整えようとしたが無理だった。
そのまま恋人だけレンタルしてフラフラとした足取りで店を出た。
恋人と付き合い始めて、俺の中でいろんなものが破壊され生成されている。
しかし、俺はいまだに具合が悪くなったときに「具合が悪いや俺」と体調の変化を伝えられない。
自律神経からくる病気は熱も出ないし目に見える変化が乏しいために理解されにくい。
そんな理由があるとはいえ、来月で5ヶ月間一緒にいる相手に「具合が悪い」と言えないのは寂しい。
何より彼を傷つけている。
あの日、夕方の公園にいたのは理由がある。
吐き気がおさまらないため、塾に行けず、しかし叱られるため家にも帰れなかった。
真っ暗になって忍び足で家の鍵を開け、自分の部屋へ入ったら一階からテレビの音と家族の笑い声が聞こえた。
自分の家じゃないような気分。
それでも布団にもぐり込むとやっぱりやわらかくてあったかくて目を閉じるとすぐに眠ってしまった。

今年は鍋をよく食べる。
もつ鍋、水炊き、ちゃんこ、キムチ、チゲ。いろんな鍋があるけれど一番好きなのはもつ鍋と水炊き。
海老が安い日は海老を入れまくったり、肉団子だらけにしたり、中に入れる具を工夫すると楽しい。
しいたけ、まいたけ、エリンギ、しめじ、えのき…きのこ鍋はきのこの種類が多いほど旨くなる。
昔はそんなに好きじゃなかった。
夜遅く帰ってくると、ぐつぐつと湯気をたてている鍋に「えーまたあ?」と口を尖らせたっけ。
最近は鍋の湯気を見るとホッとする。
こたつ。みかん。おでん。ごろんとなってつけっぱなしの見てないTVの笑い声が眠気をさそう。
今朝の天気予報。棒グラフを指差す天気予報士がくりかえしていた。
やはり「今年は寒くなる」らしい。
今日の鍋は、投げやりな俺の気分をそっと癒す鍋。
ぐっすり寝たいよ。これ食って。

東口、西口。両方へ開ける視界。駅の雑踏に数秒立ちすくむ。
就職活動で来たっけなあ。落ちたなあ。あの会社…なんて名前だっけ。
いつだっけ?2年前?俺の2年なんて俺も知らないぜ。くだらねぇ。
相方がわき腹を突っつく。「早くいこ」
今日、この駅に降りた理由は過去を回想するためじゃない。
ここから市内の中心まで駅にして4区間に点々とあるCDの中古販売店を相方と巡るためだ。
「寒い寒い」と言う相方を連れて、長い一本道を右へ左へ寄り道しながら歩く。
CD屋に入ってはそれぞれお目当ての掘り出し物がないか店内を物色する。
この日の収穫はビョークの昔のシングルや川本真琴のセカンドアルバムだ。
どちらも入手困難なだけにうれしい。
1日歩き回ってそれだけ?と思う方もいるだろうが、CD屋巡りはCDだけが楽しみではない。
途中でたい焼きを買ってふうふうしたり、かつおだしが効きすぎてあまり美味しくない中華そばを文句言いながら食ったり。
ただ好きな人と歩くだけでさえない大通りも遊園地のように華やぎだす。
そんな映画が昔あったなあ。秋に公開されていた恋愛ファンタジー。色濃い紅葉。
***
日課だったブログが最近書けないことが多い。
それは好きな相方に「お前のことが好きだ」と言えなくなったのと似ている。
1日の中でタイミングを逃してしまう。
正直、毎日泣いてる。感情が不安定で上手くコントロールできない。
それでも感じる。わかってるんだ。俺は今、幸せだ!っていえる。
昨日、うれしくて泣いた。
体温を忘れないあったかい涙がゆっくり頬を伝う。
相方は何も言わずそっと肩を貸してくれた。
朝っぱらに親父からメールがきた。
「今日は母ちゃん誕生日だぞ」
数日前、ひさしぶりに母と外出したときのこと。
車に2人で乗り込んで実家の車庫を出ていると母が「なんか懐かしい感じだわあ」とため息をついた。
俺もなんとなく意味がわかった。
小さい頃から病気を患ってた俺を助手席に乗せて母は何度もこの車庫から病院へ向かった。
ぐったりした俺に「早く着くからね」 声をかけながら。
今は助手席に母が乗っている。
「なんだかあの頃と違って今はずいぶん気持ちが楽になったよ」と窓からの日差しに目を細めている。
俺は最初申し訳ないような気持ちになって運転していたけれど、ふと“自分はどうだろう”と考えてみた。
状況はちっともよくないんだけれど、やっぱり俺もずいぶん気が楽になった。これが今の生活の感想。
15で知って20になって受け入れたこと。
27になるこの歳までわからなかったこと、出来なかったこと。
そして、そんな俺のセクシャリティから病気まで理解してくれて、ずっと横で見ていてくれた母。
駅からの帰り道、小さいショートケーキを2つ買って実家に帰った。
最近ボーっとしてるのかよく駅を乗り過ごす。
駅名の看板が少ないと思う。
博多駅に着いたら看板が博多博多博多博多博多博多博多博多博多博多博多博多博多
みたいにあってもいいと思う。
車内アナウンスも小さいと思う。
寝てる俺に林檎ばりの拡声器でがなってほしい。でも「幸福論」はシングルヴァージョンがいい。

ゲーセンでマリオの実力を見せようとしたら1-2でマリオ全滅した。
とりあえず、クリボーはいらないと思う。あとやたら元気のいい亀。

先日、相方とエイズ検査に行った。
その日は小雨がぱらつく天気。
結果が出るまでの1時間をスタバでまったり過ごす。
「雨降りそうだね」なんて、口元にはやけに甘いコーヒー。
結果は陰性。それでも、こういうのって大事。そしてとてもステキなこと。
その数日後、スペースシャワーTVでジョージ・マイケル(ゲイのポップシンガー)の半生を特集した番組を見た。
彼のアルバムは「Older」だけ持っている。本当にいいアルバム。
ジョージ・マイケルも老けたなあとぼんやり眺めていると、ジョージ・マイケルの昔の恋人の顔がうつる。
エイズで亡くなったらしい。ぶっちゃけた番組だなあと感心していると、続けてママの顔、ママも亡くなったらしい。
そして、今の恋人が語りだす。さらにジョージのパパも出てくる。ジョージそっくり。
エルトン・ジョンやスティングなんて大御所もコメントしていたが、なにより俺はジョージのパパも堂々と出ているのにおどろいた。
アメリカが進んでいるのか、彼だけ進んでいるのか。
ジョージは公衆便所で警官に逮捕された過去を自分のキャリアにポジティブに組み込むことに成功してる。
彼がしたことは開き直ってトーク番組に出ただけなんだけれど、すごく勇気が必要だったと思う。
「今は音楽も人生も気楽で楽しい」そう言って笑うジョージ・マイケル。今年で44歳を迎えたようだ。
「恋」の仕方をいつの間にか自分なりに作っていた。
斜めからの視線で、見えもしない相手の裏側をうかがっていた。
気づけばいつも荷物をまとめていた。中くらいの紙袋1つ。
すぐ帰れるように。すぐサヨナラしてもいいように。ねえどこに帰るの?
どこかでそっと声がした。
付き合いはじめて4ヶ月経った。4ヶ月目でやっと気づいたことがたくさんあった。
本当にたくさん。今ごろ気づくなんて本当に俺はバカだと思う。
こんな俺だから5ヶ月経たないとわからないこともあると思う。
半年経ったら半年経たないと得られないことがまた1つ降ってくるかもしれない。
それは神様からのプレゼント。何よりのプレゼント。
“初めて”が多い4ヶ月だった。
“相方と初めて”ではなく、本当に“初めて”な毎日。
今までの闘病や仕事の日々では経験できなかったことばかりだった。
初めて行く場所や店、初めてやる遊び、そして初めて聞く話。
最初から最後まで戸惑った。具合が悪くなった。怒った。ケンカした。
それでも何ヶ月か経って、もう一度考えた。
「ん~お前の言う通りかもしれない」俺の中で何かが変わった。新しい風が吹いた。
出会ったときの相方の笑顔がやたらと眩しかった。
俺もいつかこんなふうに笑ってみたいな。
美容室に行くと俺の顔を見るなり美容師が
「3万落としちゃったんだよね~」と頭を掻く。
「財布ごと?」と俺が聞くと、彼は「俺、財布持たんもん」と答えた。
どうやら彼はカード類も一切持たないらしい。
「キャッシュカードも持たんの??」と聞くと「金は休日にまとめておろす」と即答。
なんかよくわからないが、「男らしい…」と感心してしまい、“俺も財布をやめよう!”と思い立つ。
帰り道、財布を開くと、タワレコのポイントカードが真っ先に目に入る。
「これはダメだ…。CD買ったのにポイントもらわないなんて」と5秒で断念。
カード1枚も持たず、裸でお金生活。俺には難しいなあ。
たかひん1980年生まれ、福岡在住。グレーゾーンの良さを知って、肩の力が抜けてきたこの頃。とりあえずカレーがあれば満面笑顔。好きなもの:カレー、餅、Sigur Ros「()」、チープなオモチャ、動物、午後9時、チラシ寿司、くるり、扇風機、ブックオフの100円シングル、小室哲哉、図書館、フルーツグラノラ、水玉模様、クレヨン、寸劇ごっこ、北野武「Brother」、クロストレーナー、家族、友達、恋人。(もっと見る)
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